研究先としてイギリスを好む若手研究者たち(THES 2007年12月21日号)

Young research favour work in UK

ヨーロッパ研究議会(the European Research council 以下ERC)による研究助成金を受給する優秀な若手研究者は理論構築の研究先として英国の機関を好むことなど、50万ユーロ(約8,200万円)から200万ユーロ(約3億円)の助成金を5年間にわたって受給する若手研究者300人についてERCが公表した。

平均年齢35歳の補助金支給対象者は、21カ国170の受け入れ機関で理論構築のための研究プロジェクトを行う。助成金を受けた研究者たちはドイツ出身者が最も多く、続いてイタリア、フランス、イギリスである。その一方受け入れ先の比率としては、英国の大学等機関が19%、フランスが13%、ドイツが11%、オランダが9%である。これらの結果は、国際的な研究者をうまく引き寄せるイギリスの研究機関の魅力を示している。

補助金の配分については国籍を考慮したものではなく、研究の優秀さが唯一の判断基準であるとERCは言う。「前例のない多数の応募者があったにもかかわらず、助成金受給者たちの選択過程はうまくいっている。この方法をさらに改良して、次の更なる研究を行う研究者たちへの助成金(The Advanced Investigator Grants)にも活用していきたい。」とERCのフォティス・キャファトス議長は述べた。

(要約:OFIASインターン 山下梨江)

高所得大学教員倍増(THES 2007年12月21日号)

Number of top earners doubles

年間所得5万ポンド(約1,100万円)以上の大学教員数が過去5年で2倍に増えたことが、最近の調査で明らかになった。2001-2002年度の6千人から2005-2006年度には1万2千人に増加している。男性大学教員の23%、女性教員の9%がこの所得レベルに達している。

医学と歯学に次いでもっとも所得が多い分野は物理学と数学で、これらの分野の26%の教員が年間5万ポンド以上の収入があった。他の分野で同等の所得があったのは、アート・デザインと教育の6%、コンピュータサイエンスでは9%にすぎなかった。

大学雇用者協会の会長は、全体的な所得増は、過去10年でより優秀な教員が増えているためと指摘している。しかし、男女の収入格差はいまだに大きく、男性平均41,290ポンド(2006年度)に対し、女性平均は37,520ポンド(同)にとどまっている。

イギリスの大学ではヨーロッパ、スカンディナビア、東アジアなどからの外国人教員も増加の傾向にある。2000-2001年度では6千人だったが、2005-2006年度には1万人に増えている。

(要訳:OFIASインターン 西村 李歩)

「オックスフォード大学イベント」事務所が批判の的に(THES 2007年12月21日号)

'Oxford' events firm under fire

米国のORT(Oxford Round Table)社は、オックスフォード大学の名声を利用して会議参加者に高額の参加費を要求していると批判されている。対してORT社は批判を行ったオックスフォード大学の研究員を訴えている。

ORT社は参加者一人にあたり1500ポンド(約34万円)かかる会期5日のコンフェレンスをオックスフォード大学構内で開催するが、そのイベントの実体が明らかにされていないという。米国Chronicle of Higher EducationウェブサイトでのORTのイベントに関するオンラインディスカッションには700もの投稿があった。イベントは全く学問的なものではないこと、招待状にはオックスフォード大学と公式な関係がないことは全く記されていないこと、自分の専門外なのに会議の招待状が送られてきたことなどが寄せられている。

オックスフォード大学側は、イベントは学外の組織によって企画され大学の評判を商業目的に利用しているものであり、オックスフォード大学はそれに一切関係していないとしている。

(要訳:OFIASインターン 藁科 智恵)

二つ目の学位取得援助削減に抗議する神学者たち(THES 2007年12月21日号)

Theologians resist second degree cuts

以前取った学位と同等かそれ以下の学位レベルにおいて二つ目の学位を取る学生への資金援助の削減を決定した政府に対し、「クリスマスの暴動」が起こりそうだ。

学生の多くが既に学位を持っている神学部にとって削減は特に打撃であり、神学者たちが暴動の準備をしていると言われている。インターネット上でも削減に反対する16000名分を超える署名が集まった。英国議会では削減が生涯学習に及ぼす影響を再考するよう政府に求める動議や、技能習得に関する議案が議員206名の支持を獲得している。

オックスフォード神学部のマルティン・パーシー学部長は、この資金援助削減により“つぶれる”大学も出る可能性があると言う。「新労働党内では世俗的な力が非常に強く、社会資本と宗教心の豊かな関係を理解できないでいる。神学教育への援助削減は社会、更にはなおざりにされたコミュニティに対してダメージをもたらすことになるだろう」と彼はコメントしている。

また英国産業連盟(CBI、*1)のリチャード・ランバート総長によれば、この援助削減はマネジメント・プログラムやビジネス・スクールへも悪影響を及ぼす。「私たちは自己の分野でキャリアを積みマネジメント役に就くようになった科学者、技術者、医者などに対し修士レベルでマネジメントを勉強するよう奨励すべきである。この変化は正反対の効果をもたらすだろう」と彼は言う。

(要訳:OFIASインターン 並木 麻衣)

*1: The Confederation of British Industry (http://www.cbi.org.uk/)

資格過剰な博士号取得教育者(THES 2007年12月14日号)

Lecturers with PhDs "overqualified" for job

多くの大学教員が教育に専念しており、研究での貢献が年々減っていることが、英国高等教育学会 (Society for Research into Higher Education、RAE)の調査でわかった。

RHEによると、教育を専門とする大学教員ポストは過去10年間で12,000から40,000に増えたが、講義と研究の両方を担当するポストは1995-96年の66%から2001-2年では58%に減少している。博士号取得者が増え、研究面の実績なしでは大学で教えることが狭き門となっている。

かつては研究専門者が多かったため修士号で教鞭をとることができたうえ、研究よりもむしろ教えるほうが重要視されていた。しかし、教鞭をとるにあたって博士号が必須の今日、博士課程の学生は研究よりも論文の投稿・出版に追われ、思うように研究をしにくい環境にある。採用後もその多くが教育専門職におちついている。

英国放送大学高等教育研究・情報センター副所長のウィリアム・ロック氏は、高等教育機関において研究と教育が政策的に切り離されていて、これら二つの活動を統合することが学生と学生のキャリアにとっては望ましいと述べている。また、ロンドン大学のロン・バーネット教授は、書物を出版するのに必ずしも新たな実験や研究は必要なく、教育専門の教員は図書館で考え執筆する時間さえあれば充分に価値のある研究成果を生み出せると指摘する。

(要訳:OFIASインターン 西村 李歩)

補助金削減、「物理学にとって悲しい日」(THES 2007年12月14日号)

'Sad day for physics' as funding is decimated

物理学、天文学および宇宙科学に対する資金配分機関であるイギリス科学技術設備カウンシル(STFC、*1)は今週、補助金の削減を承認した。2011年までに13.6%増やすと見られていた予算のうち8000万ポンド分が不足することに伴い、いくつかのプロジェクトは中止を余儀なくされると見られている。更に現在進行中のプロジェクトに対する補助金の見直しも取り上げ、インフラ整備コストの削減、雇用調整のしやすい労働力の導入、開発助成金の削減をSTFCは表明している。

しかし大学側は、予算の削減は深刻な研究者不足を招き、プロジェクトにおけるイギリスのリーダー的立場を危うくし、入学者リクルートにも悪影響を及ぼし、化学・生物学および機械工学にとって致命的と主張する。

多くの物理学者が、補助金の不足はSTFCが想定している以上の悪影響をもたらす、またSTFCは政府から予想損失を少なく見積もるよう圧力をかけられているのではないかと主張している。「既に若手研究者はキャリアに関する不安を持っており、突然の方針変更は海外パートナー間の評判にも悪影響を及ぼす。」「本来STFCが援助していくべき量子物理学や天文学等々へのダメージを軽視している」など反発は根強く、リバプール大学のジョン・ダイントン物理学教授はSTFCの補助金削減に反対するための呼びかけを行っている。

イラン・ペアーソン科学大臣は「補助金配分は見直される予定であったが、それは特に追加融資を約束するものではなかった」と発言している。「政府が行うと言う物理学の見直しがこの最悪な状況を改善することを祈るしかない」と、反対派のオックスフォード大学ブライアン・フォスター物理学教授はコメントした。

*1 STFC:科学技術の革新を目的に大学・研究機関に融資を行う、イギリス職業技能省の下部公共組織。

(要訳:OFIASインターン 並木 麻衣)

高等教育ギルド:オックスブリッジに負けない教育を(THES 2007年12月14日号)

GuildHE:we can out-teach Oxbridge

高等教育組合に属する高等教育カレッジや小規模の専門教育機関は、自分たちはオックスフォード大学やケンブリッジ大学よりもすぐれた教育を提供できると主張している。

「オックスブリッジを含む伝統的エリート校に対し、よい高レベルとはいかなくても、同じレベルにはなれる」とThe University College Plymouth St Mark and St Johnのダヴィド・ベーカー学長は、市場競争がさらに激しくなる中、エリート大学に挑戦状を叩きつけた。

労働者階級の家庭に生まれ奨学金をとってケンブリッジ大学で学んだベーカー教授は高等教育組合について「教え学ぶこと、サポートとアドバイス、そして雇用への準備に重点をおいている」と説明し、また「研究重視の大学よりも、授業料に見合ったよりよい教育を私たちは提供できるのだ」とも述べた。

プレ92年(1)高等教育機関の中でも学生の経験という観点が注目されるようになり、たとえば1994年の調査では、2009年にむけた現在の上限3千ポンドからの学費値上げの見直し準備期間のなかでも学生の経験の質が優先された。

高等教育政策機関によると、ポスト92年(2)の大学に比べ、研究エリート、ラッセルグループ(3)の中では学部学生のベテラン教授へのアクセスがより制限され、さらには講義に関しては大学院生に頼っているそうだ。

「私たちは生徒の具体的な要求に、はるかに応えているのだ」とベーカー教授は締めくくった。

1…イギリスでは92年に「継続教育と高等教育に関する法律」が制定され、少数の教養・研究をめざした大学と実学志向のポリテクニクが大学として統合された。この時期以降にできた大学と、それ以前からの大学とでわけてここでは話している。
2…同上
3…アイビーリーグのイギリス版

(要訳:OFIASインターン 山下 梨江)

上院議員が第二の学位に関する論争に参加(THES 2007年12月14日号)

Lords enter the fray on second degrees

二つ目の学位を取ろうとする学生に対する1億ポンドの援助予算の削減に対し、政府は再審議を迫られている。それに付随して、イノベーション・大学・技術選択委員会は、この政策の影響、つまりそれと同等またはそれ以上の高等教育機関の学位をすでに持っている学生に対する援助を廃止することによる影響を調査する予定である。また、援助の再施行を求める署名は14000を超え、154人の下院議員が、この政策が生涯教育に与える影響を政府が熟慮すべきだとする時期尚早動議を行っている。

政府は、援助予算は高等教育を受けていない人に資金を再配分し、労働力の技術を向上させるためのものであるとしている。

自由民主党の教育担当バロネス・ワルムスリー氏は、この計画はフレキシブルな労働力の再訓練、労働力創造に関して政府が言ってきたことと矛盾すると述べた。また、削減により、職業技術の学習に短期コース等で従事している人々に多くが打撃を受けるだろうとしている。

英国大学連合は、これにより4大学が教育資金の20%を失うだろうと予測している。

大学大臣のジョン・デナム氏は、大学に行ったことのない人を優遇するのは正しいことであり、高等教育機関に対し、より多くの企業を大学運営資金の援助に参加させることがどのようにしたら出来るかということに注意を向けさせる必要性を示していると述べた。

(要訳:OFIASインターン 藁科 智恵)

くだらない!-「研究成果評価(RAE)」の論文が「研究成果評価」を評価(THES 2007年12月7日号)

'Bollocks': RAE paper assesses the RAE

「学長、ちょっとこの研究評価がくだらないということを指摘してもいいですか?全くもってくだらない。私にもあなたにもわかっている、私たちみんなわかっているんだから、それを認めて、何かもっと価値のあることをしませんか。」

これは、エグゼター大学のアンドリュー・スパークス氏が研究成果評価に提出した「具体例、研究活動、監査文化――熟考を必要とする物語――」という論文である。彼は、自身の体験を用い、物語という技法を使って、大学全体に浸透する監査文化が研究活動に与えている悪影響を表現しようとしたという。この物語の主人公であるジムは、講義、論文指導、研究科長としての役割を全て果たそうとしながら、身体的、精神的な不調に陥っていく。冒頭の発言は、ジムが学長に大学の研究成果評価の提出に際し熟慮が必要だということを訴える場面である。

今年の夏にダブリンで行われた英国社会学会自伝研究会においてこの論文が発表されて以来スパークス氏は、この物語を自分と重ね合わせる世界中の人々から連絡を受けており、多くの人々にとって真実のように聞こえる話であったように思われると言う。スパークス氏によれば、その中には映画制作の話もあったという。

これがナンセンスで、研究と呼ぶに値するものではないという人もいるかもしれないが、研究雑誌にも掲載され、多くの人がレビューを書いているとスパークス氏は述べている。

(要訳:OFIASインターン 藁科 智恵)

Hefce、高等教育機関の企業対応戦略に関する高リスクの計画を発表(THES 2007年12月7日号)

Hefce unveils 'high-risk' plan

総労働力における学位取得者の割合を2020年までに40%に上げるため、大学に数百ポンドを注ぎ込むというイングランド高等教育財政カウンシルHefce*の新しい長期計画が発表された。イギリス政府も公的財源や企業の共同融資を受ける大学の急増を目標に、今後3年間にわたる1億50万ポンドの投資を明らかにしている。

この計画は企業から大学への共同出資の増加を促進するものであると同時に、労働力に対する潜在的需要の性質や規模を測り、市場を促進するために最も効果的な供給方法を吟味する目的を持つ。カウンシルによれば現在、10から15の研究機関がこの労働力発展プログラムに即しビジネスに焦点を置いた事業の企画書を準備している。

しかしカウンシルの報告書は、この戦略には高いリスクも付きまとうと警告している。つまり、大学がビジネスに対応することで企業側からの不安定な要求、研究機関の過剰な拡大、更には財務上の不安定要素を招き、達成可能な利益よりもリスクの方が高いというのである。

雇用や高等教育に関する専門家からのコメントは「学部生市場はとても狭く、リスクに関してもよく知られている一方であまりに高い」「研究機関の資本化によって、高等教育の資金調達の選択肢の可能性が広がる」など様々である。一方でビル・ランメル高等教育大臣は、全ての大学が産業界に対応すべきであり、技能取得に関する対応を取るべきだと主張している。

Hefce…イングランド高等教育財政カウンシルHigher Education Funding for Englandの略称。教育研究資金の配分を行うイギリスの機関。

(要訳:OFIASインターン 並木 麻衣)

課外活動の充実を望む学生(THES 2007年12月7日号)

Social life high on wish list

学生にとっては勉学と同様に、課外活動や社会生活の充実が学校の質を評価する上で重要な要素であることがわかった。

多くの学生が、大学生活の中で大切なのは図書館の充実、教員との関係、そして適切な学習量だと考えているが、オピニオンパネル・リサーチ社の調査によると、学生が実際に大学を推薦する際、学内外での社会生活の要素がより高く評価されていることが明らかになった。

調査では英国ラフバラ大学がランキングトップに立ち、アカデミックと非アカデミックの両面で成功を収めた結果となった。第2位についたのはケンブリッジ大学で、学生と教員との関係重視や小グループレッスンなどアカデミックな面で高いスコアを出し、また課外活動やキャンパス内外での環境の良さが高く評価された。

(要訳:OFIASインターン 西村 李歩)

「世間知らず」なイギリス人への警告(THES 2007年12月7日号)

Expert warns 'naive' British

中国と協定を結ぶ際「出し抜かれ」ないよう大学側は用心が必要である。

英国の大学は色眼鏡を通して中国を見ることをやめなければならない。中国は高等教育の新たなグローバル拠点になってきていると寧波ノッティンガム大学Nottingham University Ninbgoの前学長イアン・ガウがシンクタンク、アゴラ*のレポートの中で述べた。

中国では大学の授業が英語で行われ、わざわざ英国へ行くかずともはるかに安く国内で英語での講義がうけられるようになってきている。また中国は、得意分野である科学へと教育の比重をシフトし始め、むしろイギリスからの研究を利用しようともしている。

ブランドネームを持たない英国の大学が中国国内の教育機関と提携する際には、よほどの注目に値するものを準備して交渉につかなければならない。このようなリスクを考慮せず焦って中国にのりこみがちな英国側にガウ氏は警告を発している。もはや自分たちの手ですべてを行っている中国とのウィンウィン・シチュエーションを考えた長期的成功や、提携の形式といった戦略が英国には欠けているのである。

*a political think tank in Sweden promoting a "radical social debate"

(要訳:OFIASインターン 山下 梨江)

副学長候補者の偏りに対し警報(THES 2007年11月30日号)

Alarm at lack of players in vice-chancellors hiring

副学長のヘッドハンティング問題への関心が高まっている。大学が小規模のヘッドハンティンググループに頼りすぎ、管理職へのアクセスが限られたものになっていると最新の調査が伝えた。

バース大学学長は、副学長の選択過程があからさまな身内びいきと固定化した支配者層によってなりたっているとし、限られた情報によるヘッドハンティグを批判している。

調査によると、過去1997年から2006年までの期間を見ると副学長の平均年齢は57歳で、そのうちの多くが白人、そしてたった15パーセントが女性であった。近年社会統計学的に副学長の顔ぶれに大きな変化はなく、また多くが似たような性質の大学の間で移動し合っている。1980年以降、副学長最終候補者リストにおける競争枠の中で、女性や若い候補者にはなかなかチャンスがまわってこない。ヘッドハンティングの透明性の向上が求められる。

(要訳:OFIASインターン 山下梨江)

教員に対し大学への忠誠を求めるイングランド高等教育カウンシルの報告(THES 2007年11月30日号)

Staff loyalty key to Hefce report

イングランド高等教育財政カウンシルHefce(*1)のガバナンス・マネジメント戦略委員会はその報告書において「教員は自分の研究分野に専念しがちであるが、高等教育機関の戦略的なニーズにも注意を払い責任を持つべきである」と発表した。報告書は研究者に対し、ビジネス専門用語やビジネス的文化にひるむべきではないと警告し、高等教育機関運営におけるリーダーシップの意味が十分に理解されていないと指摘している。学問とビジネスは密接に結びつけられるべきである、とグラント・ソントン国際会計事務所(*2)のビジネスアドバイザー教育部門長デビッド・バーニーズは述べている。

この点に関しては研究者の間で賛否両論が噴出している。賛成者の間には「機関の運営は組織が業務を執行するのを助けるためのものであり、組織をコントロールするためのものではない」「大学もまた巨大かつ複雑なビジネスとしてベスト・プラクティスをめざすべきであり、意思決定・組織戦略においては顧客、つまり学生を中心に据えて考えるべきである」などの意見が上がっている。しかし一方「学会やその役割の質低下につながるのは明らか」「押しつけであり、学会には受容しがたい」「組織に忠誠を尽くしたくて研究者になった者はいない。研究者が優先させるべきは学生と自分の研究分野である」との反対意見もある。

「大学はビジネスとは異なるものの、入学者リクルートやマーケティング、資金集めなどにおいては実務的なアプローチを取るべきである。」との意見、「教育・研究とビジネスは密接に絡み合っており、両者を切り離すことはできない」との意見も出ている。

(要訳:OFIASインターン 並木 麻衣)

*1: Hefce…イングランド高等教育財政カウンシルHigher Education
Funding for Englandの略称。教育と研究に資金援助分配を行うイギリスの
機関。
*2: グランド・ソントン国際会計事務所…110カ国に520の拠点を持ち、会計・
税務・企業経営全般のコンサルティングを行う監査法人。

スコットランドの大学、予算への望み絶たれる(THES 2007年11月23日号)

Scottish universities' budget hopes dashed

スコットランドの大学の予算不足により連合王国の高等教育は二元構造が続くかもしれない。スコットランド大学連合は、高等教育セクター全体で3年間1億6800万ポンドの予算増加を要求したが、スコットランドの民族党政府はそのうち3000万ポンドしか認めないと発表した。学費の値上げを要求できるイングランドの大学にスコットランドの大学は対抗できなくなるのではないかとスコットランドの大学学長は懸念を表している。

その他にも懸念は、予算初年度が、学費の値上げによる増収を考慮に入れてしまっている2006年の3年分割支払協定の最終年度と重なっているということである。スコットランドの大学は、資金難に面する前に、年内に支払いをすませる必要がある。

グラスゴウ大学のムイール氏は、大学は、効率性や節約を考えねばならない、としている。

(要訳:OFIASインターン 藁科 智恵)

最高位の研究者であるために課された新しい難関(THES 2007年11月23日号)

Tough new hurdle for top researchers

イングランド高等教育財政カウンシルHefce(*1)は新しい研究評価フレームワークにおいては、論文の引用回数を査定材料とすることを発表した。これは「一般的に、頻繁に引用される研究者の研究結果ほど理論面で影響力を持つ」という判断に基づくものである。

この新基準は「臨床医学」「医療制度」「保健関連分野」「生物学」「物理学・工学」「コンピュータ・サイエンス」の6分野において適用され、世界的なレベルで優秀であると認められるためには平均の3倍以上研究論文を他の研究者によって引用されなければならなくなる。この新基準によって、2010年より、約14億ポンドにのぼる研究資金の配分先が決定される。

しかし研究者の間では、研究者たちが取引して互いの論文を引用する「引用クラブ」の形成を懸念する声が上がっている。カウンシル側もこの新制度が研究者の行動に及ぼす影響の可能性への懸念を認めており、疑わしい引用行為を監視するシステムの導入も考慮しているという。

カウンシルは制度を監督する専門家による委員会の役割についても検討中で、現在は試験的に新制度を導入する大学を募集している。

なお人文分野に関しては、今まで通りピア・レビューにより評価が行われる。

新システムの要点
・2008RAE(*2)実施後2010年から2014年にかけて段階的に導入
・自然科学に関しては、研究者の論文が他の研究者から引用された回数で研
究の質を査定
・各大学機関は評価対象に含めたい教員を選択
・結果操作目的の「疑いのある」引用行為を監視
・人文においては2013年に設定されるピア・レビューで研究の質を査定
・人文に関しては、カウンシルが文献計量学的指標の主要使用について引き
続き検討

*1: Hefce…イングランド高等教育財政カウンシルHigher Education
Funding for Englandの略称。教育研究資金の配分を行うイギリスの機関。
*2: RAE2008…イギリスにおける大学評価システム。

(要訳:OFIASインターン 並木 麻衣)

研究員ポスト、任期付がまだ一般的(THES 2007年11月23日号)

Fixed-term posts still the norm for researchers

現在各大学が公募しているポストのうち、常勤職は3.5パーセントにとどまることが、UCU(*1)の調査で明らかになった。これによると、11月7日から8日にかけてある研究者向け求職情報ウェブサイトで募集された254件の研究職公募の32パーセントは1年以内の契約、23.2パーセントは1年から2年の契約であるという。これは職員の採用にあたって任期を設定することを制限するとした2002年の「採用の指針」に反するとUCUは主張している。UCUの担当者は、「非常勤研究者の雇用の蔓延は、イギリス教育界の容認しがたい暗部だ」と厳しく述べた。

教育経営大学協会Ucea(*2)が発行している「雇用ガイド」の2002年版では「任期非限定を基本とすべきである」とされている。2006年に新しい雇用法が施行され、4年以上勤めた職員を正社員とすることで短期契約を減らす旨定められた。Uceaの担当者は「研究資金が特定のプロジェクトに特定の期間で与えられる」ことが任期付雇用容認の根拠となっていると述べた。

UCUの出した他の報告書によれば、2005年に勤務を開始した大学教員30,000人のうち3分の2以上が非常勤、教職専門の教員の75パーセントが非常勤、研究員は96パーセントが非常勤である。

これに対する大学側の反応はさまざまで、ある大学の関係者は「柔軟性が必要な分野に関して任期付教員を採用している」と述べている。一方、教員全員と研究員の96パーセントを常勤にした大学では「教職員に安心感を与え安定を図るための決断だった」としている。対照的に、教員と研究員の63.3パーセントが非常勤である別の大学は、UCUが調査を行った2005年以降は常勤職員の数を大幅に増やしている、と述べた。

*1 UCU…University and College Unionの略称。英国の大学教員からなる組
織。
*2 Ucea…教育経営大学協会University Council for Educational
Administrationの略称。教育関連の大学院課程を持つ大学からなる組織。

(要訳:OFIASインターン 長谷川 涼子)

増加する不当な共著者扱い要求(THES 2007年11月23日号)

Credit where it isn't due on rise

ダラム大学などの事例報告によると、ベテラン学者が若手研究者の論文に共同研究者として自分の名前をのせるよう不正に要求する盗用問題が増えているそうだ。

共同研究自体は禁止されているわけではない。ただ明確な形でグループワークに参加したり、その論文に顕著な役割を果たしたりしていないのであれば、共著者となろうとする行為は盗用であると考えられなければならない。

このような形の不正行為は、まだ珍しいとは言っても近年増えてきている問題であり、これを防ぐ手段として指導教官と博士課程学生の論文への取り組みに関するガイドラインの設置などが本紙に提案意見として寄せられている。

研究資金の提供先を決める基準としての計量書誌学的評価の利用増加に伴い、共著者問題はさらに注意深く扱われなければならない。ダラム大学広報担当者は、大学関係者はみなこの問題に関し責任感と公正心を持たなければならないと主張している。

(要訳:OFIASインターン 山下 梨江)

大学教員の平均報酬42,000ポンドに上昇(THES 2007年11月16日号)

Average academic’s pay moves ahead to ₤42K

イギリス国立統計局が行った労働時間と給料に関する年間調査によると、フルタイムの教員の給与が過去6年間で25%以上増加した。2007年4月までに、高等教育機関の教員の年間平均給与は₤42,620で、短期大学の講師より₤10,000多く、中学・高校の教師より₤8,000高い数値となった。

大学経営者側の大学雇用者協会(UCEA)によると、2001年以来25.8%増加し、2007年4月にUCEAによる調査が開始されてからは3%の賃上げが追加された。3年間で13.1%の雇用契約数増加の傾向は今後も続く見込みで、2008年5月には3%、2008年10月からはさらに約 2.5%増が予想される。

教員の賃上げは2007年から2008年までの他の公共部門の給与増をはるかに上回っている。

大学教員組合(UCU)は、「国内の教育関係者の給料は長年ひどいものだった。経営者側にきちんとした待遇を断固として要求し続けた労働組合の活動が直接実を結んだ結果。しかし、給料をめぐり他の公共部門と争うべきではない」と語る。

要訳:OFIASインターン 西村 李歩

社会が異議を唱える権利(THES 2007年11月16日号)

Research: society has right to say “no”

倫理的な理由で社会から受け入れがたいとされる分野の研究をすすめるため、イギリス政府は科学者と協議を進め、科学政策の「新たな合意」を形成する必要性を表明した。

倫理上問題となり得る分野の研究は、科学者が適切だと判断しても社会の同意を得られないことがあるため、政府と科学者の意見の相違は研究の実現にも影響する。協議は、この分野の研究の理解と社会的容認を高めることを目的とし、また、科学の経済的・社会的重要性の認識し、実質的で質の高い科学研究者を支援する社会構想の形成を目指す。

科学協議会や英国科学振興協会は、科学とイノベーションは今後の社会の発展や経済成長に不可欠であり、研究を怠ることは経済・社会発展を阻害し諸外国に遅れをとることになると懸念している。しかし、研究は倫理的その他の問題を考慮し、慎重かつ法的手順に沿って行う必要があるとも認識している。

今後研究促進と問題対応のジレンマにいかに取り組むかが課題となる。科学政策の新ビジョンは、従来の「科学の発展、規制、利用に自信を持てる社会」から、「質の高い科学研究者の貢献を反映する社会」になる予定だ。

要訳:OFIASインターン 西村 李歩

英米が大学ランキングトップ10を独占(THES 2007年11月9日号)

US and UK fill top 10 places

The Times HigherとQS(※)が行った世界大学ランキング2007で、上位10校をイギリスとアメリカの大学が占めていることが判明した。ハーバードが4度目のトップに輝き、ケンブリッジ、オックスフォード、イェールが同点2位となった。10位以内のイギリスの大学は昨年の3校から4校に増え、32校が200 位以内に入っている。

このランキングの評価基準は、研究成果の量、学生・教員数、大学の国際化の度合いに加え、7,000人の現役教員・企業採用担当者の意見を取り入れている。ランキング結果はイギリスの国際面重視を反映したものとなった。ランキングで順位を飛躍的に上げた大学のいくつかは、その国際化戦略を高く評価されたものである。逆に順位を落とした大学は、外国人教員・学生の人数の著しい不均衡をマイナス評価されている。

ランキング結果は現在の大陸ヨーロッパの大学の位置を明らかにした。最も高い順位がついたのはフランスの大学(26位)で、カナダ、オーストラリア、日本、香港、アメリカ、イギリスの後塵を拝している。また、上位200校には途上国の大学もランクインしており、アフリカ勢として初めてケープタウン大学が200位に入った。

日本からランクインした早稲田大学の国際アドバイザーMichael Mooney氏は、英米の成功を手本としたアジアの大学が将来ランクを上げる可能性を指摘する。同氏は「アジアにおいては他の分野と同じく大学も英米型をモデルにしている。国際的に重要な位置を占める大学は50カ国に存在するが、ランクイン数はまだ少ない。次回以降の変化に期待したい」と述べた。

QS 高等教育へのアクセス支援を目的とした団体。奨学金の授与等を行う。

(要訳:OFIASインターン 長谷川 涼子)

引用に基づいた新たな研究評価(THES 2007年11月9日号)

New RAE based on citations

イングランド高等教育財政カウンシル(HEFCE)は、論文がどの学術誌に掲載されたかではなく論文の被引用回数で研究の質を評価する方向に傾いている。来年の研究評価以降、カウンシルは、年1億ポンドの資金を論文の引用回数に基づいて配分を決めることになる。

英国大学連合の報告書では、論文被引用数による評価方法はいわゆる書誌学的評価方法の中でも最も分別のあるものだとし、研究の質が正確に評価されると結論づけている。

しかし、エビデンス社(※)の提出した報告書では、そのようなシステムは研究者の行動に悪影響を及ぼし、システムの信頼性を脅かすことになるのではないかとも指摘されている。同様の評価方法が導入されたオランダでは、オランダ人研究者による引用数の異様な増加が見られ、システムに対する情報操作が懸念されている。一方、その分野で先進的な研究者は必然的に自分の論文を引用することが考えられることから、自らの論文を引用する場合も引用回数に含まれるべきであるとしている。

エビデンス社(Evidence Ltd.)とは、国際研究に関するデータ分析、コンサルティングを専門とする会社である。
RAEとは、Research Assessment Exerciseの略称。研究成果評価。詳細は、以下のリンクを参照。

(要訳:OFIASインターン 藁科 智恵)

脅かされる言論の自由(THES 2007年11月2日号)

Right to speak is threatened

研究者が職務上の権利を放棄して、既存の学説・潮流に挑戦することを恐れている状況が、今週行われたアイディア・フェスティバル(※)において議論された。

ケント・ロースクールのジョン・フィッツパトリック講師は、「内部からの脅し」の存在を指摘し、「政治的に正しい」とされているイシューに批判を加えることがとても勇気のいることとなってしまっている、と述べた。ケント大学の社会学のフランク・フレディ教授は、自分の意見を言えるようになるのを退職するまで待っている同僚もおり、私たちは、ナチの支配下にあるかのようだと述べた。

イースト・アングリア大学の学部生リチャード・レイノルズ氏は、議論を巻き起こすような意見を封じ込めがちな状況が学生の無関心の一因ではないかとし、去勢された学問はつまらない、と述べた。コロンビア大学の政治学の研究者アレックス・グーレヴィッチ氏は、コロンビア大学が最近イランの大統領を招き、講演を依頼したことに対して批判が出たことを例に挙げながら、学生を「悪影響を及ぼしうる情報から守られなければいけない存在」だとする現在の風潮も、学問の自由の衰退だと指摘した。ワーウィック大学の社会学のスティーヴ・フュラー教授は、学問の役割の一つは、議論の重要性、議論を組み立てることを学生に教えることであり、科目の専門性は本質的なものではない、と述べた。

また、フュラー氏は、学問の自由は組合の権利であり、議論をする能力は、組織的な保護が必要とされると述べ、職が奪われるかもしれないという恐怖が教員の自由な発言を控えさせている状況を批判した。フュラー氏は、ノーベル賞受賞者のジェームズ・ワトソン氏が、最近、人種と知能のつながりを指摘したことにより、大学から解雇された件を例に挙げ、このような事態についての議論を促した。

アイディア・フェスティバルとは、毎年開催される、学問に関する議論を活性化するための行事。

(要訳:OFIASインターン 藁科 智恵)

RAE(研究評価)対策を練る英国大学:少数精鋭で勝負(THES 2007年11月2日号)

Exclusions from RAE see steep rise

英国では、大学の学術研究活動を評価するRAE(Research AssessmentExercise)という取り組みが実施されている。大学はRAEのために、自大の研究者の研究成果を、評価委員会に提出する。この評価で各大学の研究はランク付けされ、そのランク付けに基づいて研究資金が配分される。RAEは5年おきに行われており、次回は2008年である。

次回評価に向けて大学間に異変が生じている。高い評価を獲得できそうな研究のみを、評価委員会に提出し、期待薄の研究者の成果は提出しないという方針をとる大学が現れているのだ。理由として、RAEの評価が大学の評判や獲得できる資金に関わってくるということ、良い評価の獲得はハードルが高いことがあげられる。

(要訳:OFIASインターン 須田 丈夫)

ディプロマ導入にゴーサイン(THES 2007年11月2日号)

Diplomas finally get a thumbs up

リーズ大学副学長によれば、ラッセル・グループ(※)の数校で、ディプロマを入学資格とする予定である。同グループは1994年の段階でメンバー校 19校全てが原則としてディプロマ導入を受け入れる意思を表明しており、またPost-1992年大学(※)の多くもディプロマを導入することを表明している。ある大学関係者は、ディプロマが現行のAレベル(※)に代わる大学入学資格になるだろうと述べた。

導入予定のディプロマは14科目あり、来年9月に5科目が導入、残りはその次の3年間で導入されることになっている。現在、大学入学規準とディプロマの細かい調整が同グループ内で進められている。

工学ディプロマに関しては内容に懸念を示す教員もおり、上級の「技術者用数学」の単元が必要かを見定める動きがある。ある教員は現在のところディプロマは不十分であると述べた。しかし別の教員は、上級単元があればディプロマはAレベルのものよりも良くなると予測している。

ラッセル・グループの関係者は、学生が高等教育を受ける際の利便性を重視している。ある関係者は教育省と専門家の連携を挙げ、別の関係者は学生のニーズにあうよう調整した高等教育を提供するというディプロマの役割を述べた。

他の調査委員会メンバーを兼ねる大学関係者は、政府でなく教育機関が大きな役割を果たしていることを重視しているが、別の大学関係者はこの流れをフェアでないとし、Aレベルの良さにも目が向かないことへの懸念を述べた。

※注
ラッセル・グループ:イギリスの研究型大学19校からなるグループ
Post-1992年大学:1992年の法改正で大学に昇格した機関
Aレベル:イギリスで学力証明に用いられる基準のひとつ

(要訳:OFIASインターン 長谷川 涼子)

キャリアの展望が立たず苦しむポスドク(THES 2007年10月26日号)

Postdocs embittered by lack of career prospects

医学学会の代表者は、研究アシスタントから研究責任者になれるのはポスドク学生7人のうち1人しかいない事を大学は周知する義務があると告げられた。

昨年施行されたヨーロッパ雇用規則では期間契約者に終身雇用の職を得る権利を与えている。しかし、ドゥンディー大学のドウンズ教授は、終わりのない契約は彼らのキャリア・ニーズに対する答えとなっておらず、研究者間の文化自体(産業界で職を得た人は成功者とみなされないような)が変わらねばならない、としている。ドウンズ教授の研究施設では、学部卒業者から研究責任者に至るまで、さまざまな段階の研究者に一般的なスキルの研修を提供している。

ブライトン大学は、ポスドク研究者支援を発展させたことを評価され、大学の研究評価が二つ星から五つ星になった。具体的な発展の内容は、ポスドク研究者に対する奨学金申請時のアドバイス、育児関連の支援等である。

(要訳:OFIASインターン 藁科 智恵)

オックスブリッジ、目標を達成できず(THES 2007年10月26日号)

Oxbridge targets 'cannot be met': Ryan

オックスフォード大学とケンブリッジ大学は公立の学校からより多くの生徒を入学させるという目標を当分の間達成できない見込みである。

オックスフォード大学は現在、54%の学生を公立高校から受け入れており、その数を5年以内に62%に増やすことが目標であるが、達成は2016年にまでずれ込むことになる。

オックスフォード大学の教授アラン・ライアン氏は、「現在の私立・公立出身生徒の比率は受験者の成績によるもので、私立からも公立からも妥当な数の受験者を受け入れている」と述べている。イングランド高等教育財政カウンシル(注)の報告書は、社会階層が低い若者に手を差し伸べる必要があると述べている。

*イングランド高等教育財政カウンシル:the Higher Education Funding Council for England

(要訳:OFIASインターン 須田 丈夫)

研究は利益を出すべし(THES 2007年10月12日号)

Research must show payoff

ピアレビューによる研究申請の評価方法を改定し、基礎研究でなく、経済的効果を生む可能性のある研究に助成を出すとする案に、複数の研究委員会が賛同した。この改革は来年以降段階的に導入される予定である。

「経済効果」の定義は広く、特許や子会社から得られる商業的利益のみならず政策や日常生活への影響も含まれる。芸術・人文科学研究会議(AHRC)のトップはこの改革について、一部の研究者にとって困難を伴うものであると認めたものの、「研究成果に加えてプロジェクトの経済効果をも示すことができれば、研究者にとってチャンスとなる」とし、経済効果をより真剣に考えるべきだとの見解を示した。

各研究委員会の間で統一を取るため、ピアレビューの新しいガイダンスや改定版の電子申請フォームが導入される予定であるという。ピアレビュー審議会に参加する一般消費者の割合も増やすとされている。

しかし、王立協会Royal Societyと英国物理学会Institute of Physicsは、申請段階で研究結果を予測することに懸念を示している。王立協会の担当者は不測の事態の存在を述べた。英国物理学会の担当者は当初の予定通りの利益を上げられなかった多くのプロジェクトの例をあげた上、本当に画期的なプロジェクトを重要性の低いプロジェクトが押しのけてしまう危険性を指摘した。

(要訳:OFIASインターン 長谷川 涼子)

全ての研究成果が評価(RAE)の対象へ(THES 2007年10月12日号)

All work to be counted in RAE evaluation

理工系分野での研究の質評価システムに関し、新たな提案がなされた。研究者は、個人単位でRAEにエントリーし、4つの研究成果を提出するようになり、この変化により、大学の学部ごとの全ての研究成果が評価の対象となる。また、2008年以降の各大学のインフラ整備のための資金配分決定システムの土台となる。このアイデアの骨子は、高等教育財政機構Hefceからイノベーション・大学・職業技能省大臣へと提出され、デナム氏が承認すれば、11月後半から高等教育財政機構は、関連セクターと協議することになっている。このプランは、資金分配の為の研究成果の出版数や引用数に基づいた評価方法の作成を高等教育財政機構に依頼されたオランダのライデン大学が作成した。

高等教育財政機構の次の課題は、政府が理工系分野での研究の質評価の規準として考えている3つの規準(研究収入、院生数、計量書誌学的規準)の統合である。新しい評価システムは、2010-11年、2013-14年の間に、徐々に理工系の分野で導入されていく。それ以外の分野では、現在の評価方法が続く。

(要訳:OFIASインターン 藁科 智恵)

第2学位取得者のためのセーフティーネット(THES 2007年10月12日号)

Hefce plans safety net fund for second degrees

生涯学習が広まるにつれて、英国では大学を卒業した人が、もう一度大学に戻って学び、学位を取得することが一般的になっている(second degree:第2学位)。しかしながら、政府はこの第2学位取得を目指す学生のための学費援助を削減することを決定した。

これに対して、学生側から非難の声が上がっており、署名が集められている。また、高等教育財政機構は、一部の科目(科学、工学、技術、数学、現代言語、イスラム研究)を履修する学生には、セーフティーネットとして資金援助の継続を計画している。また、第2学位取得を目的とした学生が多い大学は、この援助削減によって打撃を受けることが予想されるため、財政機構は2000万ポンドの資金援助を提案している。

(要訳:OFIASインターン 須田 丈夫)

大学ごとの博士号取得「失敗」率、公表される(THES 2007年10月5日号)

PhD 'failure' rates revealed

イングランド高等教育財政カウンシルHigher Education Funding Council for England(Hefce)は、各高等教育機関の大学院生が7年間で学位を取得した割合をまとめたランキング表を初めて公表した。Hefceによれば、これは「大学院生へのサポートの向上」を目的としており、今後学生がどこの大学院に進むか検討する際に参照されることを想定しているという。

Hefceの定めた基準と実際の数字との間に大きなギャップがあったとして、6大学名が挙げられている。また、その他に規準を満たしていない2大学の名もあげられている。また、プラス評価では、目標を大きく上回ったとして4大学が選ばれている。

Hefceの調査方針責任者によれば、このランキング表は大学運営者にも役立つという。目標を大きく下回った大学に関しては「この評価がついた理由をよく調査し、必要であれば改善することを望む」とされている。

このランキング表は、1999年~2000年にイギリス高等教育機関のリサーチ・ディグリー・プログラムを始めて2005年~2006年までの7年間に学位を取得した全日制の英国・EU出身学生を対象としている(1999年~2000年に博士課程に入学した8,013人のうち78パーセントが、この時期に学位を取得している)。

National Postgraduate Committeeの総務担当者は、このランキング表に関して「学生が出願前に各機関を評価できる」とした上で、大学は「各教員の下で学生がどれだけ早く学位を取れたかを公表するところまで進むべきである」と述べ、「博士号取得が困難であってはならないが、一部教員の指導はお粗末すぎる」としている。

(要約:OFIASインターン 長谷川 涼子)

出版待ち状態が引き起こす研究成果評価(RAE)への不安(THES 2007年9月28日号)

Publishing jam creates RAE fears

出版混雑による出版の遅れのせいで、研究成果が来年の評価対象から除外されてしまうというのではないかという不安が研究者間にみられている。

ウェストミンスター大学のユージェニー・シンクル講師によると、著作を出版するのに、原稿を提出してから15か月以上かかった。RAEの提出期限に間に合わせるために国中の研究者が出版業者に押し寄せ、出版の渋滞が起こり、それが、研究者の業績を傷つける怖れがあるという。また、RAEにエントリーするためには、研究成果が最低4点必要で、それに満たない場合は、過去3年間何もしていないことになり、研究資金を失ってしまう可能性もあるという。

それに対し、多くの研究雑誌は、12月のRAE締め切りに合わせ、電子媒体で出版を行っており、いくつかの審議委員会も電子媒体を認めている。また、バーミンガム大学のマイク・クルーズ研究担当副学長は、研究者はRAEの研究成果の計画期間として6年間が与えられていることを考えると、研究者に
同情をする気にはなれない、と述べている。

(要約:OFIASインターン 藁科 智恵)

オフィスにさようなら(THES 2007年9月28日号)

Say goodbye to the office

英国のコベントリー大学では、教員専用の机や研究室をなくし、代わりに働く場所は自宅でも近所のカフェでもどこでもよしとする取組みが始まっている。部屋を手放す代わりに、教員には外でも仕事ができるようにノート型パソコンや携帯電話が支給される。コベントリー大学はこのプロジェクトに関して『共同情報システム委員会』から補助金を得ており、同様の取組みが他の大学に広まることが期待されている。

また、ノッティンガム・トレント大学では教員の仕事スペースを個室から、みなで共有する大部屋に移した。この変化には教員から抗議の声が上がっており、同時に研究者が最も仕事をしやすい環境とは何かについての論争も起こっている。ある研究者は、オープンスペースはうるさくて仕事ができないと述べている。

*『共同情報システム委員会』→大学等での情報基盤整備を助成する非営利団体JISC(The Joint Information Systems Committee)

(要約:OFIASインターン 須田 丈夫)

私立カレッジが学位を授与(THES 2007年9月28日号)

Private college to award degrees

英国枢密院(Privy Council)が、BPP Holdings plc.が運営する法律とビジネストレーニングの会社BPP カレッジに学位授与の権限を認めた。非営利のCollege of Lawに同じ権限が認められた前例はあるが、営利企業に認められるのは初めてである。

同カレッジは、すぐに名前をBPP University Collegeに変更する予定であると発表しており、それに伴って2、3年のうちに完全な大学の資格を求めるという。同カレッジ役員は、「今回の認定は革新的な、驚くべき記念碑的決定だが、政府の専門職養成の方針にのっとったものであり、我々はそのとおりにしている」と述べ、「これは、これまで慢心していた伝統的な大学の一部部門に対して健全な競争を持ちかけるものだ」と付け加えた。

同カレッジの1年間のコースの授業料は1万ポンドであり、2009年からはビジネス・法律分野の大学院コースも開始する。また、教育とトレーニングを専門とするアメリカの営利企業Kaplanも、この学位授与の権限に関心を示している。

しかし、University and College UnionのSally Hunt事務局長は「高等教育は商売のタネではなく、もし大学側が営利に走れば質は保証できない」と述べ、懸念を表している。

(要約:OFIASインターン 長谷川 涼子)

トップ大学の学生は依然ほとんどエリート高校出身(THES 2007年9月21日号)

Elite few still fill top universities

最近行われた調査によると、オックスフォードとケンブリッジの学部生の33%は、英国の上位3%のエリート高校出身者で占められていることが明らかになった。オックスブリッジほどではないが、他のトップ大学でも上位100の高校(ほとんど私立)が定員の6分の1を占めている。この事態に、大学の門戸を広くするための既存のプログラムの効果を疑問視する声が上がっている。

また、この調査によると『A-Level』で同じ成績を取っていても、私立トップ校の生徒は公立トップ校の生徒に比べ、トップ大学に入る率が2倍も高いことが明らかになった。調査は、公立高校の学生は、私立高校の学生に比べて意欲が乏しく、職業に関するアドバイスを受ける機会が少ないと述べている。

(要約:OFIASインターン 須田 丈夫)

*A-Level→日本でいう高等学校レベルの教育修了資格にあたる。基本的にA-Level は大学入学のために必須の試験。

個人的な教育費が急増(THES 2007年9月21日号)

Private tuition booms

教官とのコンタクトが減り、講義の規模も大きくなり、経済的に恵まれた学部生が有利になるという状況が生じている。家庭教師仲介業者によると、自分がまだ高等教育を受ける準備ができていないという不安、また大学から十分なサポートが得られないのではないという不安から多くの学部生が家庭教師を利用し始めているという。最大手のアルファ・チューターズは、過去2年間で学部生の利用が40%上がり3000人となった、と報告している。

Universities UKは、講義の規模の縮小、教官とのコンタクトの増加という学生の要求が増加していることを認識していて、そのためには、公的な資金の導入が必要だということを表明している。

生涯教育・高等教育の担当大臣ビル・ランメル氏は、学生調査によって、一部の学生は今以上のサポートの必要性を感じているが、多くの学生が現状に満足していることがわかっている、と述べた。

(要約:OFIASインターン 藁科 智恵)

企業的業績管理は大学になじまない(THES 2007年9月21日号)

HR expert says scrap 'off-the-shelf appraisals

大学経営者協会により実施された調査によると、多くの大学は新しい業績管理の仕組みを実施中か、または今度の導入を検討していることが明らかになった。しかしながら、大学教員の間にはこの企業的な業績管理手法に反対する声も強く、大学には民間企業のような成果評価はなじまないという声が強い。

一般的な業績管理の方法は、ある仕事をこなすのに必要とされる能力の規準を定め、その基準に基づいて個々人の能力や欠点を査定する。しかし、ある専門家は、大学は企業のように製品の出来を重視するところではなく、多元的な価値観が共存するところであると述べている。また、教職員全体を平等に扱っていることを示すために、企業と同じ業績管理制度を導入しているところが多いという意見もある。

(要約:OFIASインターン 須田 丈夫)

満足―しかし学生はより多くのフィードバックを求める(THES 2007年9月14日号)

Satisfied - but students want more feedback

授業に関しては特に教員の説明の技術の評判が良く、英国の82%の学生が満足しているが、個人的な指導に関しては 54%の学生しか満足していない、ということが今年行われた学生調査によって明らかになった。大学連合のサリー・ハント書記長は、クラスの規模が個人的指導を困難にしていると述べた。

ほとんどの学生連合がこの調査に進んで協力している一方、ケンブリッジ大学の学生連合は、これらの質問は単純化されすぎて無意味になっており、学生たちはこの調査に参加すべきでないと呼びかけている。ケンブリッジ大学側は、学生たちからこの調査の結果を得られないことはケンブリッジ大学にとって大きな損失となると通達したが、学生からの回答はあまり得られなかった。但し調査に参加した学生の91%は大学に満足しているという。

(要約者:OFIASインターン 藁科 智恵)

アメリカの大学教員の大量退職とそれに伴う問題(THES 2007年9月14日号)

As old crew quit, it's not all smooth sailing

ベビーブーマー世代の教授の大量退職を控えて、アメリカの大学では不足する教員をどう充足するかが大きな問題となっている。大学入学者数は近年増加傾向にあり、看護学部などでは教員が不足しているため志願者を門前払いしているところもある。

各大学は教員充足のためにさまざまな方策を練っている。ある大学では学費を上げることによって、新たに教員を雇えるようにしている。また、ある大学では奨学金や報奨を設けて、学生が大学に残って教員になることを奨励している。子供がいる女性が教員として働けるようにするために、教員採用用件を変更した大学もある。

欠員補充のための主要な方法は、非常勤講師の数を増やすこと、そして、外国人教員の採用を増やすことである。しかしながら、外国人教員については英語力が低い事例が多く、問題となっている。

(要約者:OFIASインターン 須田 丈夫)

人文学系の「余剰」は合理化に拍車をかけるか(THES 2007年9月7日号)

'Surplus' in arts may spur shakeout

人文学系卒業生の供給過剰状態に対処するため、大学はその学位が雇用者によってどれくらい評価されるかによって、分野ごとに非一律に授業料額を設定するべきだと教育経済学者が主張している。

教育協会のアンナ・ビグノールズ氏は、人文学系の学士取得者はまもなく過剰になり、人文学学位の価値はそれを得るためにかかった学費よりも下がってしまうだろう、と分析し、また、もし授業料が専攻ごとに設定されないならば、特に2009年以降に授業料値上げの上限が引き上げられたら、学生はすぐに就職に結びつかない専攻から離れていくだろうと述べている。高等教育政策協会のバーラム・ベクラドニア氏もそれに同意し、市場を考慮に入れた授業料設定が必要だとした。

一方、高等教育省のビル・ランメル氏は、英国の学士取得者は平均して、高等教育セクターの拡大にも関わらず大きな利益を得ているとした。

(要約:OFIASインターン 藁科 智恵)

論文に学部名をきちんと書くよう教授に指令下る(THES 2007年9月7日号)

Staff told to sharpen up citations

キングズカレッジロンドン(ロンドン大学のカレッジの一つ)の教授陣は、学長から次のようなお達しを受けた。「論文を書くときには、自分の所属する学部名を間違えないように。」このような指令が下った背景には、1990年代のロンドンの大学の大規模な再編がある。再編の結果、大学の組織が複雑に入り組んでしまったため、自分がどの大学・学部に所属しているのか研究者の間に混乱が生じている。そのため、キングズカレッジのある学部が発行した論文のうち、学部名が誤って書かれていたものが47%もあった。

この論文に書かれている学部名は現在、大学にとって死活問題といっていいほど、非常に重要な意味合いを持っている。なぜなら大学で行われている研究の評価は論文の引用件数で決まっており、この論文引用件数は大学に研究資金を配分する際に重要な判断基準になっているからだ。しかし、もし論文に違う大学・学部名が書かれているなら、大学の評価が狂ってきてしまう。

(要約:OFIASインターン 須田 丈夫)

教養ある社会はピアレビューを擁護(THES 2007年9月7日号)

Learned society defends peer review

今週発表された英国学士院(British Academy)報告書によると、英国学士院は英国で伝統的にとられている研究者評価手法であるピアレビューを支持する考えである。また、ピアレビューはコストと時間を食うとの批判が高まっていることに対しては、レビュアーへのよりよいトレーニングと報酬が要ると述べた。

報告書は、人文学・社会科学分野での評価手法として論文引用回数・助成金交付回数などの測定規準を用いることに警鐘を鳴らしている。人文学・社会科学分野では論文や学術誌も少なく、成果が認知されるまでの期間が非常に長く、上記の測定規準ではこれらの分野での成果を正確に測ることはできないため、不完全にしろ有効な手段であるピアレビューの付加物として用いるべきだというのがその理由である。

政府は12月に、科学・技術分野では測定規準のみを評価に用い、芸術・人文学・社会科学分野では測定規準と「簡単な」ピアレビューを併用することを承認した。詳細は今月後半に明らかになる予定である。

しかし各大学やRAEではピアレビュー活動にほとんど力を割いておらず、新しいレビュアーが育ちにくい状況である。ある関係者はこれについて「『最も優秀な研究者は、専門分野の成果動向に目を向ける必要から常に調査機関のピアレビューに従事している』という事実が信じられていないためだ」としている。

(要約:OFIASインターン 長谷川 涼子)