「すばらしい」教育、危機か(THES 2007年8月24日号)

'Awesome' teaching may be a dead end

グラスゴー大学のポストドクター研究者Peter Saffreyは、教員として学生からのフィードバックで「すばらしい」を複数回もらっているにも関わらず、研究発表業績が少ないという理由で昇進を拒まれていると語り、現在の評価制度が研究業績を重視しすぎているとの不満を述べた。

また、彼よりキャリアの長いある研究者は、幾度も昇進を見送られている自身や同僚の状況を挙げ、大学が弱い教員を切り捨ててランキングを上げる目的で昇進を機能させていると語り、大学機関がRAEに盲従していることに疑問を呈した。

(要約:OFIASインターン長谷川 涼子)

慈善的地位から合法的収入へ?(THES 2007年8月24日号)

Charity status may be traded for legal gains

大手法律事務所エバーシェッドのジョン・ボードマン氏によると、大学間競争の激化に伴い、高等教育機関は効率化・営利化の道を模索しており、これまでの慈善的ステータスを放棄する流れもあるという。

国を下支えしてきた教育・研究に不可欠である大学の独立性を侵害するとしてこの流れを危ぶむ大学関係者もある。しかし、100以上の大学を顧客に抱える同事務所では、彼らのアドバイスを受けて、有限責任会社として合併した大学、また合併を検討している大学もあるという。

有限会社化によるメリットは、貸付金の回収可能性にナーバスな銀行などの投資家から投資を受けやすくなることであり、ボードマン氏は「大学はより洗練された財政システムとして、企業からの投資を検討している」としている。

2006 年にイングランド・ウェールズで導入されたCharities Act 2006により、大学には自らの活動が低所得者層に利益をもたらしていることを示す義務が生じた。ボードマン氏は、「この法案により大学の目指す道は変わったが、そのインパクトは未知数である」と述べた。

10月にThe Association of Heads of University Administratorのフォーラムでは、大学の商取引と付随する税制上の利益の観点から、慈善的ステータスの制約について議論する予定である。

(要約:OFIASインターン 長谷川 涼子)

求む、ニュータイプ(THES 2007年8月24日号)

Wanted: new breed

次の国会で基礎学位法が提出され、継続教育カレッジで成人向けの基礎学位が増えることが予想されているのに伴い、カレッジによる大学教員・大学職員の引き抜きが激しくなるだろうと考えられている。The Association of Collegesは、基礎学位で学ぶ成人の数が政策の後押しを受けて2010年までに10万人ほどに増加すると見込んでいる。これは大学の守備範囲でない分野にカレッジが食い込むことを意味し、あるAoC関係者は「基礎学位は未開発の巨大な市場を生み出す可能性がある」としている。

継続教育カレッジは、従来の研究手法を身に着けた教員と、基礎学位教育での異なるアプローチの経験がある人物の双方が必要になると予想している。この「異なるアプローチ」には産学連携が含まれ、この点でカレッジは自らを大学より有利であるとしている。

しかし、大学関係者の中にはこの流れを危ぶむ者もおり、University of Central Lancashire副学長は、カレッジの中には研究スキルのなさが致命的欠陥となって閉鎖せざるをえない基礎学位コースも出てくるのではないかとしている。

(要約:OFIASインターン 長谷川 涼子)

大学副総長が減税を主張するロビーの間抜けな批判を攻撃(THES 2007年8月24日号)

V-cs attack tax-cut lobby's 'Mickey Mouse' criticisms

大学副総長らが、大学が意味のないコースを提供することにより、税を無駄にしているという主張に対し反論している。納税者連合(ポリティカリー・コレクトの官僚主義に対する攻撃で有名な自由市場団体)の研究は、91の機関における401のコースは無意味(” Mickey Mouse” courses)で、これらが廃止されれば、4000万ポンドが節約されるだろうとした。

英国大学技術グループ書記長、ロンドン・サウス・バンク大学副総長のホプキン教授は、「Mickey Mouse coursesという概念自体が、侮辱的であり、新たなタイプの学位の目的を誤解している。また、実際に4000万ポンドは、高等教育に使われる金額の 1%の半分であり、これらの学位を持つ人々は、将来労働して、より多くの納税をする。会計学や経済管理が大学に導入されたときも人々はそれに懐疑的だったことを記憶している。」とした。その研究によって、最も無意味なコースが多いとされるダービー大学の副総長は、この研究には根拠がないと主張している。

(要約:OFIASインターン 藁科 智恵)

新たに発表された大学ランキングで議論が再燃(THES 2007年8月17日号)

Debate reignited by new league tables

大学ランキングは教育専門家の間で常に激しい議論の的となっているが、今 週発表された各ランキングに対しても様々な意見が出ている。

現在、The Times Higherのもの以外にも数種の大学ランキングが存在してい るが、調査の主眼は大学財政や授業の質など様々であり、自大学の特徴を十 分にアピールできず不本意な順位になることがあるとの批判もある。

これに対して、インターネットがもたらす柔軟性が各ランキングにかかって いるバイアスを和らげるとする大学関係者もいる。また、自らを参考材料の 一つにして読者が自分なりのランキングを作ることを推奨しているランキン グもある。

ランキング擁護の意見としては、学生の大学選びに有効である、客観的視点 から大学の質を判断できる、大学の質の向上につながる、といったものがあ る。一方、ランキングに反対する意見としては、伝統や財源のある大学に有 利に働いてしまう、編集者の意図でバイアスがかかる、大学のありかたが健 全でなくなる、評価できないはずのものを評価している、といったものがあ る。

(要約:OFIASインターン 長谷川 涼子)

講義重視の教授、昇進の道を断たれる(THES 2007年8月10日号)

Professor says teaching focus blocked career

オックスフォード・ブルックス大学教授のアラン・ジェンキンス氏は、高位教 授職へ昇進が認められなかったことについて、審査過程の不合理さを訴えてい る。ジェンキンス氏のために書かれた推薦状の4通のうち3通はジェンキンス氏 を世界的に高い評価を得ていると評し、高位の教授職に推薦している。しかし ながら、推薦状、昇進を求めての異議申し立て、氏が所属する組合による仲裁 はどれも功を奏さなかった。

氏は高等教育における地理教育を推進したことで、王立地理学会から表彰を受 けている。また、教育センターを他大学と設立するなど高等教育改善のために 精力的に活動してきた。

しかしながら、大学側は昇進に関する審査は透明であると述べ、昇進見送りは 教授の教育学における指導力が十分立証されていないからであると主張してい る。

ジェンキンス氏は昇進失敗の理由は、自身の教育学に特化した研究活動であり、現在の英国の研究評価システム(RAE)のもとでは、RAEに関連しない研究は 評価されず、自分の研究はまさにそれだったと述べている。

(要約:OFIASインターン 須田 丈夫)

「危うい」指標に対する研究者らの厳しい批判(THES 2007年8月10日号)

Scholar slates 'dodgy' criteria

ケンブリッジ大学動物学部の発達生物学者ピーター・ローレンス名誉教授は、 Current Biology最新号において、研究評価指標の害を指摘した。そのような 指標は、研究者にその基準に合わせることを強いているが、真の研究目的であ るべき自然や病気の理解を妨げているという。また、評価において質より量が 重視されているために、質の悪い論文の著者のポストは確保される一方、独創的な研究がないがしろにされている、という。

しかし、インペリアル・ロンドン・カレッジのスティーブ・ブルーム氏は、そのような基準は単独では偏ったものになる可能性はあるとしても、被選考者の専門分野の多くの同業者の意見として、評判とバランスを取って使えば、人材採用において有用である、と述べている。

(要約:OFIASインターン 藁科 智恵)

サマーズ騒動の「原因は彼の遺伝子にある」(THES 2007年8月10日号)

Summers' storm was 'written in his genes'

ラリー・サマーズ前ハーバード大学長は「女性は生まれつき高度な科学的思考に向いていないのではないか。そしてその理由の解明は別の不都合な事象の判明につながるのではないか」という発言で物議をかもしたが、DNA構造の共同発見者の一人ジェームス・ワトソン教授が、近く発売される自伝「退屈な人々を避けよAvoid boring people」の中で、「あのサマーズの不適切な発言は、必ずしも彼の社会的センスのなさのせいだけではなく、彼を数学的経済学者にした遺伝子によるものではないか」と述べている。

ワトソン教授によれば、このような態度を引き起こす遺伝子を見つけるためには、先のサマーズの発言そのものも含め「男女の脳の相対的発達と機能を遺伝子がどうコントロールしているのかをさらに調べる必要がある」とのことである。

(要約:OFIASインターン 長谷川涼子)

授業料上限引き上げ、大学は将来像を再検討(THES 2007年8月3日号)

Cap off: it is time to reconsider profile

2009年の大学授業料見直しを前に、英国の諸大学は教育市場における生き残りのために動き始めた。年間3000ポンドの授業料の枠内で大幅な授業料の値上げが予想されており、各大学は学生数を減らすことなく、どれだけ授業料を上げられるか検討している。

「大学は市場における自身の位置づけを見直す必要があるだろう。大きな間違いを犯す大学も現れるだろうし、繁栄する大学もあるだろう」とバッキンガム大学の教育・雇用研究センター長のアラン・スミサーズは述べ、どの大学にとっても将来は楽観視できないという考えを表明した。

政府はこの状況に関連して、大学にベストなパフォーマンスを上げられる分野を見つけるよう繰り返し薦めており、岐路に立った大学には旧来のやり方から脱却することが求められている。

こうした中、戦略的ビジョンを持ち競争に飛び込む大学がいくつか現れており、それら新大学は昔からある大学に戦いを挑むのではなく、市場で見過ごされてきたニーズに対応する形で勝負をかけようとしている。

(要約:OFIASインターン 須田 丈夫)

増加するフィールドワーク中の危険(THES 2007年8月3日号)

Fieldwork perils mount

社会科学者の安全に対するアプローチに失敗や手抜かりがあると、カーディフ大学国立調査手法センターの報告書が指摘している。調査者が肉体的・精神的な傷を負うケースは大学に報告されている以上に一般的であり、また、調査対象保護の動きがある一方で、調査者の安全は無視されがちであるという。調査議長を務めるグラスゴー大学のミック・ブロア研究員は、この報告書によって大学内の意識が向上し、危機管理に対する積極的な取組みが行われるよう期待すると述べた。

しかし、この報告書が危機に対して過剰な嫌悪を引き起こし、危険とみなされる地域に関する調査一般を妨げるのではとの懸念もある。

Universities UK代表は、「この報告書は重要な問題を提起しているが、大学はスタッフの安全に関しても、研究安全ガイドラインについても取り組んできている。この報告書の提案を検討し、さらに発展させることができるかは検討する。」と述べた。英国社会科学研究における主要支援組織である経済社会研究カウンシルの代表は、「同カウンシルの研究倫理規定は、研究計画において調査者と被調査者双方の危険に関し熟慮を払うよう定めている」と述べた。

(要約:OFIASインターン 藁科 智恵)

学生にとり「海外留学のほうが安上がり」(THES 2007年8月3日号)

Students told it's cheaper to study abroad

民間代理店Degrees Aheadは学生のオーストラレーシアへの留学を促している。授業料上限引き上げもあり、生活費も計算に入れるとオーストラリアでの学位取得はイギリスより安く済むにも関わらず、イギリスの大学は国際的教育市場での競争への関心が薄く、外国に目を向け始めた学生に充分な情報提供をしていない、というのが理由である。

これに対して大学側は、国内ではもらえる奨学金が留学には適用されないことなども挙げ、オーストラリアに興味を持つ学生が増えているとは言いがたく、また教育の質ではイギリスは世界トップクラスであると反論している。さらに、留学の重要性を認めながらも、非英語文化圏での留学体験のほうがよいとも述べている。

(要約:OFIASインターン 長谷川 涼子)