海外情勢(THE 2008年2月28日号)

Overseas Briefing

米国:一流大学がより多くの寄付金を
米国の大学やカレッジが、298億ドル(約3兆円)の寄付金を2007年に受け取ったことがわかった。その中でスタンフォード大学が8億3200万ドルと最上位である。この結果からもわかるように、裕福な大学が最も利益を得ており、全体の2%でしかないトップ20の機関が全ての民間基金のうち25.8%を集めている。

サウジアラビア:振る舞い方のコツ
何千人ものサウジアラビア人たちが、留学先での振る舞い方に関するオリエンテーションを受けている。そのオリエンテーションでは、宗教を重んじつつもその国の慣習にも敬意を払うことを強調される。また、イスラムで禁止されている異性との関係事項についても扱う。

米国:非常事態訓練の必要性
暴力事件が起こった際の学生の対応を訓練することで、米国のキャンパス内でのさらなる安全が確保できる。最近のキャンパス内発砲事件からも分かるように、学生が事件を防ぐうえで大切な役割を果たすであろうと米国の高等教育ジャーナル『高等教育クロニクル』が伝えた。37の発砲事件のケースをみると、犯人は事件を起こす前に、その計画に関して少なくとも同級生1人には話している。しかしながら誰も報告をしなかったのである。

インド:財政支援、質の向上を求める
インド政府は高等教育改革を早めるためにもっと資金をあてるべきであると国家知識委員会(the National Knowledge Commission)が述べた。改革のひとつとして、全ての大学や研究室、図書館、病院、農林系機関を高帯地幅ネットワークでつなぎ、データを共有できるようにするといった提案があり、そのためには更なる財政支援が必要となるだろう。

オーストラリア:アボリジニの参加率未だ低く
1996年から2006年の間で、オーストラリア高等教育における先住民の参加人数は1860人増えただけであった。2005-06年の増加数8854人に対して、アボリジニ以外のオーストラリア学生の人数と合わせることを考えると、控えめにみても2倍の18000人まで増えるべきであるとウェスタンシドニー大学が述べた。

(要約:OFIASインターン 山下梨江)

ロンドン大学の学部合理化に教員は懐疑的(THE 2008年2月28日号)

Staff sceptical over streamlining of UCL faculty

経営を合理化し研究者が研究に充てる時間を確保することを目的として、ロンドン大学のユニヴァーシティカレッジが決定した教育と研究の分離が議論の的となっている。中でも生命科学部は2ヶ月前に組織の再編成が行われ、1月より新組織体系で運営されている。移行に伴い8つの学科が廃止され、研究に関しては研究部が担っているが、これにより各研究部の長たちは研究に関連した仕事に専念することができるという。

しかし研究者から上がる懐疑的な声は止まない。旧薬理学部の「死亡告知記事日誌」をウェブ上で公開しているデヴィット・コルクホン教授によれば、新しい学科は「大きすぎて」「首尾一貫した理論の無い」ものであり、研究者から経営者にコースの設置や備品までに関わる力が譲渡されているという。再編成に賛成する研究者も、研究者側から運営側に意見を言えるシステムも重要であると言う。
 
(要訳:OFIASインターン 並木 麻衣)

ビジネスと教育(THE 2008年2月21日号)

Business divisions

高等教育機関全般において、大学経営の専門職化により多くの大学に構造的、文化的な変化が起きている。高等教育とは無関係の分野からの大学経営者、事務職員の採用が増えているだけでなく、高等教育全般にビジネス化の傾向が見られる。大学経営者のマーケティング能力や人材管理能力などが重視され、報酬にも影響するようになった。優先事項をめぐって研究者と経営者で意見の対立も生じている。

平均的な米国の大学は年間予算の約10%、アイビーリーグでは20%をマーケティングにあてており、英国も同じような方針をとることになるという指摘もある。バーミンガム大学のビービー教授は、「以前は質の高い研究を行う手段として外部資金を調達していたが、今では資金調達が大学の目的そのものになっている」とし、学術理念が運営方針の後回しにされていると懸念している。

オックスフォード大学のルドル氏は、教育と経営の対立はあるものの、優秀な大学は変化に柔軟に対応し、両者をうまく利用することができると言う。大学という複雑かつ多様性のある教育機関では、教員と専門職員が協力して運営することが望ましいと指摘する。

ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジのハラス氏は、大学運営の「職業化」は、学校管理を専門職として認識することで、具体的な資格が求められ、大学側は人材育成のための訓練も援助すべきだとする。

民間部門などから採用された大学経営者は、ビジネス感覚を生かした新しい視野を取り込むという面で有益だが、意志決定においてコンセンサスを重視する教育機関になかなか適応できないこともある。大学では、人材斡旋業者に高額を払い優秀な副学長や経営陣を採用しようというところでてきている。経営者採用でのミスは将来のビジネス戦略に打撃を与えることになるため、多くの大学は競ってトップ経営陣を確保しようとする。

教職員組合(UCU)など、人材会社を介した採用に懐疑的なところもある。サリー・ハント氏は、「そのようなサービスを考慮する前に、まず内部を見て、なぜ優秀な人材が応募してこないのか、報酬、労働条件、昇進の機会など職員に対する大学の対応はどうかを見直す必要がある」と述べている。

(要訳:OFIASインターン 西村 李歩)

「就職のために勉強する」ことで消える学問への愛(THE2008年2月21日号)

Love of learning lost in ‘studying for jobs’

教育を、就職のための単なる道具としてみるように人々をけしかけているとして、政府政策に強い批判が起こっている。

大学生が、その科目が好きだから勉強するのではなく、学位を労働市場へのパスポートとしてとらえるようになっている。「経済と教育の間につながりがないと思うほど『愚か』なものはおらず、実際にそのつながりが弱すぎる時代も過去にはあった。しかし今は振り子が道具主義としての教育へ傾きすぎている。学位が本来の意味をなくすのと同様に、仕事への興味なしに単なる金稼ぎの手段として就職するために、仕事のスキルが落ちているのではないか」とアングリア・ラスキン大学のマイク・ソーン副学長は嘆く。

これに対して「授業料収入を、図書館・授業のサポートスタッフの向上などに使ってほしいという学生からの要望や、教官との関係に望んでいることからもわかるように、学生たちが就職のためだけに勉強しているのではないことは明らかだ」というあまり悲観的でない意見も出ている。

(要訳:OFIASインターン 山下 梨江)

海外情勢(THE 2008年2月21日号)

Overseas briefing

オーストラリア:高給料職により大学生数が減少
国内の資源市場好況のために、大学出願者数が減少している。鉱物資源開発の拡大が労働市場の加熱へと繋がった結果、18歳の若者が重機の運転で年収13万オーストラリアドル(約1290万円)を稼ぎ出している現状は「大学の需要を損なっている」と現地の新聞は報じている。

ジンバブエ:崩壊する教育システム
ジンバブエの教育システムが、2000年からの国家財政破綻により倒壊しつつある。学生連盟の元連盟長によればジンバブエは「高等教育に関する公的支出の急激な減額、教育状況の悪化、教育設備・インフラの倒壊、学生の不安、大学自治の侵食、良質の教員の不足、学問の不自由、大学卒業生の失業」に直面しており、学生からの献血の95%がHIV陽性であるという情報も上がっている。

米国:商才への架け橋
米国を拠点とする経営教育評価機関AACSBが、経営大学院の教員数を増強するブリッジプログラムを促進することが報じられた。このプログラムは、企業の経営幹部が大学教員となるにあたって、彼らに教育・コース開発スキルをつけさせることを目的としている。

バーレーン:新しく課された基準
バーレーンの私立高等教育機関は6月までに財務や学問分野において新しい基準を満たすことが求められている。教育相によれば、私立高等教育機関は「専門的な法律に即して扱われ、財務や学問の要件や基準に加えて3年間で施設・教育設備の要件も満たす」ことになる。

米国:海外留学のための学費に関する訴訟
海外留学中の学生が米国での所属大学に納める学費が再び議論に上がっている。最近、留学先での費用よりはるかに高額な授業料・寮費を徴収するのは不当として学生の父親が大学を訴え、海外で取得した単位のために所属大学へ学費を納入することの是非が問われている。

オーストラリア:搾取される留学生
最近の調査によれば、オーストラリアにいる留学生の多くは最低賃金より低い賃金で働き、最も搾取されている層に属している。これはオーストラリアのサービス産業輸出としての観光業の一部を教育が担っている結果である。教育サービス輸出は2007年に前年より21%増加、留学生数は前年値から18%増加している。

(要訳:OFIASインターン 並木 麻衣)

本質を求めて(THE 2008年2月14日号)

Soul searching

「人文科学が危機に瀕している。ただつまらないと、同僚からも一般の知識人からも軽くみられるようになった」とスタンフォード大学で英文学・比較文学を教えていたマージョリ・パーロフ名誉教授は述べた。伝統的に正統派科目であった人文科学だが、現代においては求められているものとのバランスがとれず、時代遅れの価値がないものだと、外部の人間だけでなく、人文科学研究者自身も思い始めている。

問題は、「読む価値のあるもの」が決められており、そしてこれらの勉強こそが価値あるものなのだとするエリート主義と文化帝国主義が存在することである。不公平に認められない作品に対する学生のアクセスに制限をかけてしまうなど、少数派を除外することによりヒエラルキーを守り続けようとしているのだ。

しかしながら一方で、人文科学に対し肯定的な意見も聞かれる。たとえば今日の諸問題は歴史に関する無知ゆえに起こっているとして憤りを感じている市民たちが、政治的運動を起こしていることも事実である。このことに関し「本当に無意味なものなどないのだ」と歴史学者たちは満足している。また自分たちは、学生がより思慮深く批判的な、ある意味でのよい市民となるサポートをしていると信じている研究者も多くいる。

「人文科学における学びは、静的で受け身なものではない。私たちが読み、考え、書くことで変化が生まれるのである」とサセックス大学のアンバー・ジェイコブス氏は言う。

人文科学を学びたい学生の数は減らない。本当の「危機」は、人文科学、その科目自体の重要さと、学生の人生に与える良い影響、それら双方の価値を学者たちが説得力のある主張で伝えることができるかどうかである。

(要訳:OFIASインターン 山下 梨江)

海外情勢(THE 2008年2月14日号)

Overseas briefing

中国:広がる通信教育
中国では過去10年間で通信教育を通し学位を取得した学生が600万人を超え、現在でも同制度で4,000万人が教育を受けていることが明らかになった。中国では1978年以来、国内44の省立大学がテレビやラジオ、インターネットを使った通信教育を実施しており、地方に暮らし大学に通うことができない学生の教育を支援している。また、土壌学や水の保全など農業に関する専門技術は農村地域に生かされている。

ドイツと英国:研究資金調達の一元化
英国の芸術・人文科研究会議(AHRC)とドイツ研究協会は、研究面での資金協力を発表した。共同プロジェクトに携わる両国の研究者らは今後一つの企画書で共同資金を調達できるようになり、これまでの二重申請を回避できるようになった。

米国:私立大学の価値
マサチューセッツ工が公益をより効果的に示さなければ、米国議会の金融政策に干渉されてしまう」と指摘した。ホックフィールド氏は、大学の金融政策を決めるのは連邦政府ではなく個々の大学だとし、政府は大学の経営に干渉しないよう訴えた。

インド:試験結果発表早める
大学入学金助成委員会は、大学院進学希望の卒業生のために学位の結果発表日を、7月か8月に前倒しするよう国内全ての大学に申し入れた。しかし現在インドでは、大学が決まった時期に試験を実施しなければならないとう規定はない。

アフリカ:学者のネットアクセス
アフリカの研究教育にテクノロジーを利用した革新的な試みが始まった。アフリカと欧州34カ国3,000万の研究・教育機関を網羅する高速インターネットアクセス、ウブントゥ・ネット・アライアンスは、アフリカの9カ国と国際社会をつなぐネットワークで、学者間の情報共有や研究能力向上を目指す。

(要訳:OFIASインターン 西村 李歩)

雇用現場のニーズを満たせない中東の大学(THE 2008年2月14日号)

Middle East universities fail to meet region's jobs needs

世界銀行がモロッコからイラク、パレスチナ自治区も含めた中東・北アフリカ地域において実施した教育全段階に関する調査によれば、この地域の教育と労働市場の間には食い違いがあるという。「教育と経済成長の関係が弱く、教育を受けることが経済力獲得に結びついておらず、教育の質が期待外れのままである」と報告書は警告する。

高等教育機関の卒業生が就職できない。公的セクターが民間より大きく給料も高いのだが、大学が、学生がそこでの仕事のために身につけるべきスキルとして何をカリキュラムを組むべきかわからないのでいるからである。

現状は国によって差があるが、中等・高等教育年齢人口の多さと、その高い人口増加率がシステム全体に負担となっているところは共通している。大学は公的資金だけでなく民間資金からの拠出を探るべきであると報告者は言う。高等教育が公的利益だけでなく民間への利益にも貢献し得るからである。

この報告書は、中東・北アフリカの全教育課程の問題の鍵となるのは、インセンティブの改善と公的説明責任であろうと結論付けている。

参考(報告書pdf):
The Road Not Traveled : Education Reform in the Middle East and North Africa

(要訳:OFIASインターン 並木 麻衣)

ブラッドフォード大学、言語学部閉鎖へ(THE 2008年2月7日号)

Bradford to silence its languages department

ブラッドフォード大学が現代言語学部の通訳・翻訳の修士コースを閉鎖する予定である。それに反対するインターネット署名運動には約1400人が参加し、フランス語大学教員協会(the Association of University Professors and Heads of French: AUPHF)もブラッドフォード大学に対し遺憾の念を表している。

大学は入学希望者が減り続けているため2003年に4年間の補助金を学科に与えたが、更なる入学希望者減少を受け、2006年に学部生募集を、昨年2007年には修士コース生募集を停止した。「しかし現代言語を学ぶことは学生にとって大変重要であり、どうやって学生に言語教育を提供するか方策を検討している。」と前副学長のレイヤー教授は言う。大学組合側は修士のプログラムを閉鎖したということは学部の閉鎖、教員削減は時間の問題だろうと言っている。

英国にとり翻訳サービスは重要であり、高等教育における現代言語教育は政府の補助金とともに継続されるべきであるとAUPHFは主張し、学生たちによる署名グループが、首相にまで訴えを起こしている。

(要訳:OFIASインターン山下 梨江)

海外情勢(THE 2008年2月7日号)

Overseas briefing

米国:上院、大学の資金用途の詳細要求
最も資金力のある国内136の大学は、寄付金の使用用途、学資援助制度、そして過去10年間の授業料の増加について情報を提供することになる。大学への寄付金は授業料、学長の年収とともに年々増加しており、これらの資金がどのように教育の向上と学生支援につながっているのか調査する必要があるとしている。

ヨーロッパ:博士課程教育の連携高まる
欧州で800の大学が加盟している欧州大学協会(European University Association)は、博士課程教育研究推進評議会を発足した。博士課程教育の国際的重要性を高め、欧州外の傾向を調査し、各機関の戦略を支援することを目的としている。

カナダ:国立科学アドバイザー職務終える
カナダ政府は昨年4月に科学・テクノロジー・イノベーション委員会が設立されたことを受け、国立科学アドバイザー研究室を廃止することになった。発足して4年もたっていなかった。

中国:カンニング防止に政府動く
学生が試験中のカンニング術に腕をあげているため、中国教育部は試験実施手順の向上とより厳しい罰則を法に盛り込むことにした。学生の間では組織化されたカンニングや送受信機能付きラジオを使うなどの手口が横行しており、調査では学生900人のうち83%がカンニングしたと答えた。

米国:アフリカ旅行返金に終わる
ワシントン大学では17名の学生が「持続可能な発展とエンパワーメント」を学ぶためガーナの村落に5週間の旅行を企画していた。しかし12人が病気になり、うち8人が首都アクラの病院に転送されたうえ、シアトルの病院に追加治療のため運ばれた。旅行は中止され大学は17人全員に2500ドル(約26万5,800円)払い戻した。

インド:英語力支援計画
デリ大学は、学生のニーズに沿った英語習得コースで、学術論文やレポート執筆に役立つようなプログラムを提供する計画を打ち立てた。学生の多くは語学力が不十分なために論文やレポートで苦しんでおり、授業でも消極的になっている。大学は学生の英語力向上に意気込んでいる。

(要訳:OFIASインターン 西村 李歩)

指導教員:「留学生の必要英語力の最低基準が低すぎる」(THE 2008年2月7日号)

Minimum English standard is set too low, tutors say

留学生に対しては入学許可申請の際にIELTS(International English Language Testing System) 試験で最低6.5~7のスコアが義務付けられているが、それでも授業コースに充分対応出来ていないという。

中国人留学生の英語力について調査したリーディング大学の言語・リテラシー・センター長ヴィヴ・エドワード博士の発表によれば、留学生たちが英国に順応しようとがんばっていることを認めつつも、学生の水準を維持が憂慮されている。例えば外部評価は大きな懸念事項であり、留学生のプロジェクトの内容が優れていても文法的間違いを修正させるケースが多い。留学生のライティング・スキル不足も問題であり、彼らの指導教員はどの程度手を入れるべきか頭を抱えることもあるという。

エドワード博士はライティングをサポートする経験豊かな指導教員を大勢確保しておくことを提案し、「英語が外国語である学生向けの補助教材を作るため指導教員と各コース担当教員の連携が必要」と述べている。英国人学生も、留学生の語学力に対して期待の修正が必要なようだ。

(要訳:OFIASインターン 並木 麻衣)

「安全な英国」、留学生の人気高く(THE 2008年1月31日号)

UK begins to rival US in popularity stakes

英国は治安の良さと教育水準の高さで留学生にもっとも人気のある国となっている。143カ国からの11,000人以上の留学生を対象に実施した調査では、回答者の95%が英国を「魅力的」または「非常に魅力的」な留学先としており、米国の93%を上回った。

英国の政府関係者は、留学生がもたらす恩恵は大きく、大学の国際化や世界レベルの研究基盤の維持を助けているだけでなく、大学運営の貴重な収入源であり、英国経済全体にとっても有益だと話している。

もっとも評価が高かったのは英国の治安の良さで、96%の留学生が「個人の安全」のカテゴリーで「よい」または「非常に良い」と回答し、2位の米国、86%を上回った。「取得資格の信頼性」では米国の99%がトップだったが、英国は2位で97%を得た。

報告書によると、米国は英国にとって留学生市場で最強のライバルだが、留学生がまず注目するのは国ではなく大学だと指摘する。質の高さを維持するために米国のような留学生の大量誘致は避けるべきだとしている。

(要訳:OFIASインターン 西村 李歩)